ひさしぶりの本の紹介です。
自分の中での戦国時代のヒーローは今も昔も山中鹿介(幸盛)なんですが、家という単位だと鹿介が仕えた尼子家ではなく、会津の葦名家だったりします。
この葦名家は戦国末期に伊達政宗に滅ぼされ、家臣たちも散り散りになってしまったためか、重臣であってもあまり情報が伝わっておらず、系図や諱が満足に分からなかったりします。
そんな葦名家で有名なのは、中興の祖と言われる十六代盛氏と、「会津の執権」と呼ばれた金上盛備でしょう。
盛氏は会津の国人を従え越後から仙道(中通り)まで葦名家最大の版図を築いた人物で、奥羽の一雄として名をはせました。
盛備はその盛氏に仕え、盛氏の死後も天正十七年の摺上原の戦いに至るまで葦名家を支え続けた忠臣です。
本書「時限の幻」はその金上盛備と伊達政宗の二名を軸とした歴史小説です。
小説での葦名家というと、伊達家か佐竹家の話では必ず出てはきますが、主役級に据えたものはほとんど知りません。
というわけで、普段は宮城谷昌光か陳舜臣しか読まない自分も、思わず「これは!」と思って即買してしまいました。
穿った見方をすれば今年の大河ドラマの便乗とも思えないこともないですが、もしそうだとしても盛備に焦点を当てたのは素直に嬉しいです。
しかし実際に読み進んでいくうちに、ちゃんと調べて書いているなぁというのが分かってきて、盛備を描きたいから書いているのだな、と理解するようになりました。
内容は、斜陽の葦名家を支える盛備と、生命力の満ち溢れる若き政宗を対比させながら、葦名家の滅亡までを描いています。
どんなに盛備が頑張っても、歴史の結果として葦名家が滅亡することが分かっているため、読み進めるのが辛くなってくるところもありますが、救いとしては葦名家の重臣たちがみんなそれぞれ主家への思いを持って動いていたとされていること。
みな、葦名家のためを思って行動していたのだが、悲しいかな盛氏の死後は家中を束ねる人がおらず、結果として伊達家の侵略を許すことになってしまったのです。
やはり盛氏の子・盛興が夭折してしまったことが惜しまれます。
盛備は自らの行動をもって家中の結束を強めようと努力しますが、いかんせん周囲には独断専行ととらえられて、結果としては分裂を招いてしまうことになります。
(「会津の執権」という渾名も、盛備の強権を揶揄したものとしています。)
この辺のジレンマも、盛備にそれを求めるよりは他の誰かがフォローできなかったのか、と思うところですが...。
羽柴秀吉とのエピソードもしっかりと盛り込まれ、秀吉とのやり取りを通して盛備の家臣として、武士としての本懐が描かれています。
というわけで、本書は金上盛備ファン、葦名家ファンはもちろんのこと、南奥羽の戦国史に興味がある人もぜひ一読いただきたい作品です。
なお物語は永禄八年、盛備が三十九歳のときから始まりますが、青年期もぜひ読んでみたいです。
どうも盛備は若い頃のエピソードが見当たらないので。
続編が出ないかなぁ。
※「あしな」の表記は「蘆名」「葦名」「芦名」とありますが、「会津葦名時代人物辞典」に従って「葦名」としました。
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