このたび、古くからバンドを応援いただいている「8 Ball」氏が、ファーストとセカンド両アルバムの解説分を寄稿してくれました。ありがたいことです。そのうちバンドのウェブサイトにもアップすると思いますが、先行して本ブログに掲載します。
2001年のライヴを最後に活動を停止していたVISION OF HELLが何の気まぐれか、それから20年以上を経た2023年に復活することになった。しかもアルバム2枚同時リリースという快挙(暴挙?)とともに!
前身バンド時代から彼らをウォッチしていた身としては、決してこれを見逃すわけにはいかぬ。居ても立っても居られず、伝手を辿って中心メンバーである御影に連絡をとったところ、なんと直々に「ウェブサイトに載せるアルバムの解説文を書いてほしい」という依頼を受けたのであった!
というわけで、光栄にも2枚のアルバムを解説することに相成った。しばし拙文にお付き合いいただきたい。
About the VISION OF HELL
まず初めに、VISION OF HELLというバンドについて簡単に説明しよう。
結成は1998年12月、オリジナルメンバーは御影・龍・武藤の三人である。流動的であったメンバーが2001年に固定化、4カ月に渡るライヴハウスツアーと音源リリースを行うなどし、極彩色と轟音が織り成すダーク・ワールドとメンバーのルックスの良さが一部で注目を集めるに至ったが、同年末にライヴ活動休止。その後メンバーの脱退が相次ぎ、2003年には無期限の活動休止を発表し、シーンから完全に姿を消した。
2001年のライヴ活動休止時点のラインナップは、御影・陽・武藤・ヘラルド卿の4人であった。サウンドは英国ニューウェイヴを基調とし、ギター・ロック、ダーク・ゴシックやシューゲイズといった要素が散りばめられている。シンセサイザーの同期も積極的に取り入れているが、あくまでも基本はバンド・サウンドで、ライヴでの再現性に重きを置いていた。
音源リリースは2001年 "RED EP"・"BLACK EP"、2003年 "THE FALL EP" のEP三部作のみ、それ以外はデモテープが数本出回った程度で、アルバムも作られていなかった。
そして、それから15年後を経た2018年。当時の関係者もそろそろ鬼籍に入ろうかというタイミングに突如として活動再開を宣言、さらにそこから5年の沈黙を経てアルバム2枚同時リリースに至った。2001年当時、最前線でバンドを追っていたわが身からすれば、これを奇跡といっても決して過言ではないだろう。
ちなみに、バンド名はSalvador Daliの作品から取られたという説がある。
1st Album "DUST ON THE LIPS OF THE VISION OF HELL"
2013年頃から密かにレコーディングを開始し、足掛け10年をかけて制作されたという、結成25年目にして初となる1stフルアルバム。1999年制作のデモテープ "FALLINGDOWN" のコンセプトを継承し、ポップソング、ファンク、ダンス、ノイズ、メランコリックなミドルナンバーからダークソングまで、バラエティに富みバランスの取れたラインナップを意識して作られたライトサイド・クロニクル。
このファースト・アルバムは、セカンド・アルバムと比較すると振り幅の大きさに驚かされるわけだが、すでに "FALLINGDOWN" の時点で同様の体裁であったことを鑑みると、これがVISION OF HELLの常態と見ることもできる。そもそもが、このバンドの目的はフロントマンである御影の稀有なパーソナリティを音世界に投影することであり、そしてその御影は混沌とした精神構造の持ち主で、1つのイメージでとらえられることを避ける生粋の天邪鬼でもある。すなわち、ファースト・アルバムは御影の精神を俯瞰的に描いたものであり、セカンド・アルバムはその暗黒面にフォーカスして描いたものだと言うことができよう。
元Lillies Dyingのベーシスト・里村が "ENFANTS TERRIBLES" と "CRAWL" に、元メンバーの陽が "A PRIVATE WAR IS GOING DOWN" にそれぞれゲスト参加してる。
収録曲のほとんどはデモやEPにて既出であるが、"ENFANTS TERRIBLES"・"CRAWL" の2曲は実質今回が初お披露目である。ただし、これらは御影が一時期ギターで参加していたシューゲイズバンド・Lillies Dying向けに作られた楽曲で、12インチスプリット盤としてリリースする予定であったが、レコーディング直前でメンバーが失踪したために頓挫した過去がある(そのスプリット盤には、VISION OF HELLも参加予定であった)。
以下、楽曲ごとの簡単な解説である。
- "THE LAST SUMMER"
- ライヴではツイン・ギターによる轟音が聴覚を無慈悲に破壊しにきていたが、本作ではシンセサイザーを中心に据えて、ポップで聞きやすいアレンジになっている。痛みや悲しみの表現であるというギター・ノイズの中に、かの "灰ノ中ニ、火ヲ求メ" の一節の如く、一縷の光を求めるのである。
- "ENFANTS TERRIBLES"
- ベースギターを元Lillies Dyingの里村が担当。タイトルおよび歌詞はジャン・コクトーの同名小説をモチーフとしている。VISION OF HELLとしては曲の構成が複雑だが、それはもともとLilles Dying向けに作られたためである。
- "UNDERDOG"
- "THE FALL EP" では16ビートのシンセベースが特徴のデジロック調であったが、本作では2001年の "Le Rouge et le Noir Tour" 後半で披露されたバンド・アレンジとなっている。ポップに毒を吐く、というのは最初期の楽曲 "CHANGE OF MIND" にも通じる、御影が得意とするスタイルである。
- "CRAWL"
- ベースギターを元Lillies Dyingの里村が担当。ただし、ギターとヴォーカルを除くトラックは "THE FALL EP" レコーディング時のデータを流用している(シーケンス・データが消失したらしい)。シューゲイズといえば、ということでトレモロを導入した御影のギター・プレイも聴きどころである。
- "KISS ME DEAD"
- 2000年頃に御影がLillies Dyingのライヴに参加して演奏されたパンク・アレンジをベースに、シンセサイザー・パートをギターに置き換え、ローファイなギター・ロック調にリアレンジされた。歌詞も、"RED EP" 版から一部改変されている。タイトルの元ネタはTHE CUREの "THE CATERPILLAR" だと思われる。
- "HATE U"
- イントロとアウトロの和太鼓(とイントロの歌舞伎風掛け声)は、初期デモのみで存在が確認されていたが、本作でなぜか復活した。ファンクをベースにしながら、御影の遊び心を散りばめたカオスな楽曲で、こういった曲ができるのはVISION OF HELLのニューウェイヴらしさでもある。なお、御影によると本作は恋愛初期の高揚感を描いたラヴ・ソングとのこと。
- "SEA OF MANDARA"
- デモテープ "LOST" にインストゥルメンタルとして収録されていた曲で、ヴォーカル入りは今回初収録となる。"LOST #0" から派生した曲の1つであり、曲の途中で音階が長調から短調が変わるという、VISION OF HELLとしては珍しい構成となっている。
- "DONWFALL [瓦解]"
- "FALLINGDOWN" に収録されていたインストゥルメンタル曲。
- "A PRIVATE WAR IS GOING DOWN"
- "THE FALL EP" に収録されていた音源をベースに、御影パート(ヴォーカル、リズム・ギター)のみ新録されている。作曲は陽だが、アプローチは "罪" 以降のスタイルに寄せており、VISION OF HELLというバンドとしての統一感が高まっていると感じられただけに、その後の陽の脱退が惜しまれる。
2nd Album "DE PROFUNDIS"
ファースト・アルバムと同時に制作・リリースされたセカンド・フルアルバム。ダークソングのみで構成されたデモテープ "LOST" のコンセプトを継承した、全編を "贖罪" というテーマが貫くダークサイド・クロニクル。自らが犯した "罪" を巡る8編からなる贖罪の旅の記録である。全曲活動再開後の新録で過去音源の流用はない。ドラムを除くすべての演奏は御影1人で行われており、また歌詞もかなり深奥に踏み込んだ内容になっているなど、内省的な面の強い私的な作品であると言えよう。
ファースト・アルバムと同様、ほとんどの曲が既出であるが、"THE SINNER" と "OUT OF THE DEPTHS OF SORROW [幻影地獄]" の2曲は本アルバムが初出である。
以下、楽曲ごとの簡単な解説である。
- "諸行無常"
- オープニングを飾るインストナンバー。デモ段階から次曲「罪」とセットで作られていた。
- "罪 ~THE CARDINAL SIN~"
- 御影がバンドのターニングポイントと位置づける曲。この曲からサウンドスタイルが固まり、歌詞の内容もより深く自身の内面をえぐって描くようになったという。2分におよぶ長い前奏、同じフレーズを繰り返すミニマル的アプローチ、Aメロからサビという最小の展開などが特徴として挙げられる。今回のアレンジはギターが前面にフィーチャーされ、ハードな印象を与えるようになった。なお、ライヴでは "Le Rouge et le Noir Tour" の最終日1回のみ、かつ短縮版で演奏された。
- "灰の世界"
- VISION OF HELLとしてはシンプルなロック・ナンバー。"BLACK EP" 版のバンド・アレンジをベースにしながら、イントロ部分などは新しいアレンジになっている。"灰の世界" というフレーズは、"ANGELDUST" のサビにも登場している。個人的な見解として、DAVID BOWIEの "ASHES TO ASHES" の影響を受けているように感じられた。
- "FALLING BIRD"
- メランコリックなナンバー。本曲を "FALLINGDOWN" のアレンジでレコーディングしたいと思ったことが、2枚のアルバムを制作するきっかけになったという。オリジナルのアルペジオの音色を再現するために、わざわざZoomの古いマルチエフェクターをオークションで手に入れたりしたそうだ。(ただし、レコーディングでは別のエフェクターを使用したとのこと。)
- "FLOWERS OF ROMANCE"
- "LOST" 収録の "幻影地獄" をライヴ向けに再編した楽曲。ダークで疾走感があり、バンドの代表曲とも言える存在。タイトルはおそらくPILの同名曲から採られたと思われる。歌詞の一部にフィリップ・K・ディックの影響が見られる。"Le Rouge et le Noir Tour" の前半では、サビの歌詞とメロディが異なっていた。
- "SINK"
- 後追い自殺について描いたハード・ナンバー。"RED EP" 版のバンド・アレンジがベース。このようなハードな曲がHR寄りにならないのは、御影の出自がニューウェヴであることに起因していそうだ。武藤のベースラインを完コピした御影のベース・プレイにも注目したい。
- "ANGELDUST"
- 前身バンド時代に作られた楽曲。ファースト・セカンドの両アルバムの収録曲のうち最古であり、オリジナル・ギタリストである龍の在籍時のライヴで演奏された中で、唯一収録された楽曲でもある。アレンジは "LOST" 版をベースに、龍のギターに加えてさらに前身バンド時代のギターをミックスしているなど、正しく集大成と呼べる出来である。
- "THE SINNER"
- 活動休止前の直前に作られており、2021年時点でもっとも新しい楽曲である。"罪" の続編としての位置づけにあり、サウンドはよりミニマル的なアプローチを深め、同じフレーズを繰り返すことでラストまで緊張感を持続させ、強いカタルシスを感じさせるようになっている。シンセサイザーの多用は、初期(龍の脱退後)のサウンドを意識しているそうだ。
- "OUT OF THE DEPTHS OF SORROW [幻影地獄]"
- "僕はあのとき死んでいるべきだった" という戦慄の独白から始まる、全長9分近い大作。"THE FALL EP" のレコーディング・セッションで演奏されたバージョンから、歌詞やメロディーが大きく変更されている。御影自身の思い入れがとても強い曲であり、バンドのアンセムであるという。歌詞の最後は "幻影の地獄に立つ" であり、それはある種の終着を意味し、長きに渡った贖罪の旅はここでいったんの終わりを迎えるのである。
以上である。最後まで読んでいただき、心から感謝する。願わくば、次のアルバムがリリースされ、再びこのような機会を与え給え。
2024年2月20日 8 Ball
[著者紹介]8 Ball (エイト・ボール)
2000年前後に発行された同人誌 "Tokyo Batcave" の主催で、一時期VISION OF HELLのマネージメントも担当。推しのゴシック・バンドはThe Sisters of Mercy。
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